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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)3267号 判決 1998年9月03日

原告

中島浩一郎

ほか五名

被告

福島宏典

主文

一  被告は、原告中島浩一郎に対し、金八三二万四四四九円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告中島鮎子に対し、金八三二万四四四九円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告中島幸男に対し、金七二万〇八六九円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告中島美代榮に対し、金七二万〇八六九円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告中島浩一郎、同中島鮎子、同中島幸男及び同中島美代榮のその余の請求並びに同岡西五一郎及び同岡西紀久子の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、これを二〇分し、その一三を原告中島浩一郎及び同中島鮎子の負担とし、その五を被告の負担とし、その余をその余の原告らの負担とする。

七  この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告中島浩一郎に対し、金三一三四万一六九〇円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告中島鮎子に対し、金三一三四万一六九〇円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告中島幸男に対し、金二〇九万七一七一円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告中島美代榮に対し、金二〇九万七一七一円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告岡西五一郎に対し、金二〇〇万一九三五円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告は、原告岡西紀久子に対し、金二〇〇万一九三五円及びこれに対する平成七年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用自動車と中島久萬吉運転の普通乗用自動車とが衝突して中島久萬吉及び中島幾子が死亡した事故につき、同人らの親族である原告らが、被告に対し、民法七〇九条、七一一条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年一二月二三日午後一時二五分頃

場所 大阪府貝塚市三ツ松二〇〇番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(大阪三四ち四七二五)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 普通乗用自動車(和泉五三は二六一六)(以下「中島車両」という。)

右運転者 中島久萬吉(以下「久萬吉」という。)

右同乗者 中島幾子(以下「幾子」という。)

態様 本件事故現場付近の交差点において、西から南に黄色信号で右折中の被告車両と対向車線を東から西に黄色信号で直進進行してきた中島車両とが衝突した。

2  被告の責任原因

被告は、進路前方、左右を注意し、進路の安全を確認して右折し、対向車と衝突しないようブレーキを踏むなどして結果回避する義務があるにもかかわらず、前方の注視を怠った過失がある。

3  久萬吉及び幾子の死亡及び相続

(一) 久萬吉は、本件事故により、平成七年一二月二三日午後三時四五分頃、死亡した。

(二) 久萬吉の死亡当時、幾子はその妻、原告中島浩一郎(以下「原告浩一郎」という。)及び同中島鮎子(以下「原告鮎子」という。)はその子であった(甲一1)。

(三) 幾子は、本件事故により、平成七年一二月二三日午後七時頃、死亡した。

(四) 幾子の死亡当時、原告浩一郎及び同鮎子はその子であった(甲一1)。

4  他の原告らの地位

(一) 原告中島幸男(以下「原告幸男」という。)及び同中島美代榮(以下「美代榮」という。)は、久萬吉の父母である(甲一2ないし4)。

(二) 原告岡西五一郎(以下「原告五一郎」という。)及び同岡西紀久子(以下「紀久子」という。)は、幾子の父母である(甲一5)。

5  損害の填補

(一) 原告浩一郎、同鮎子、同幸男及び同美代榮は、本件事故に関し、久萬吉関係で自賠責保険金二四〇〇万円の支払を受けた。

(二) 原告浩一郎、同鮎子、同五一郎及び同紀久子は、本件事故に関し、幾子関係で自賠責保険金三〇〇〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故の態様

(原告らの主張)

被告は、時速二〇キロメートル以上の相当のスピードを出していた。また、中島車両からの見通しは悪かった。

(被告の主張)

久萬吉は、対面信号黄色で本件事故現場の交差点に進入している。しかも、中島車両の速度は制限速度である時速四〇キロメートルをはるかに超過し、少なくとも時速六〇キロメートルを上回っていた。したがって、久萬吉の過失は四〇パーセントを下回ることはない。なお、久萬吉関係の自賠責保険金が二四〇〇万円とされているのは、自賠責の査定上、重過失があったとされたためである。

また、幾子は、久萬吉の妻であり、両名は身分上、生活関係上一体とみられるから、久萬吉の過失に幾子についても斟酌されるべきである。

2  久萬吉の損害額

(原告浩一郎及び同鮎子の主張)

(一) 逸失利益 五四七八万一二七二円

(二) 退職慰労金 五七九万六〇〇〇円

(三) 死亡慰謝料 七八四万円

(四) 葬儀費用 一七五万七一六〇円

3  幾子の損害額

(原告浩一郎及び同鮎子の主張)

(一) 逸失利益 三〇一五万一五三一円

(二) 死亡慰謝料 六七二万円

(三) 葬儀費用 一七五万七一六〇円

4  原告浩一郎固有の損害

(一) 久萬吉死亡による慰謝料 五〇四万円

(二) 幾子死亡による慰謝料 四三二万円

(三) 弁護士費用 二〇〇万円

5  原告鮎子固有の損害

(一) 久萬吉死亡による慰謝料 五〇四万円

(二) 幾子死亡による慰謝料 四三二万円

(三) 弁護士費用 二〇〇万円

6  原告幸男固有の損害

久萬吉死亡による慰謝料 五〇四万円

7  原告美代榮固有の損害

久萬吉死亡による慰謝料 五〇四万円

8  原告五一郎固有の損害

幾子死亡による慰謝料 四三二万円

9  原告紀久子固有の損害

幾子死亡による慰謝料 四三二万円

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲五2ないし27)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府貝塚市三ツ松二〇〇番地先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場の交差点(以下「本件交差点」という。)は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とが交わる交差点であり、信号機による交通整理が行われている。東西道路の最高速度は西行車線が時速四〇キロメートル、東行車線が時速五〇キロメートルにそれぞれ制限されていた。

被告は、平成七年一二月二三日午後一時二五分頃、被告車両を運転し、東西道路を西から東に向かって走行していたが、別紙図面<1>地点で右折の指示器を点灯して第二車線に入り、同図面<2>地点で対面信号の黄色表示を確認し、時速約二〇キロメートルで右折を開始した。同図面<3>地点で同図面<ア>地点を走行中の中島車両を認めたが、本件交差点には進入してこないであろうと思い、進路前方に目を転じてそのまま進行した。ところが、中島車両は、対面信号が黄色表示であったにもかかわらず、時速約六〇キロメートル強で本件交差点に進入しており、被告は、同図面<4>地点で同図面<イ>地点を直進している中島車両を発見し、急制動をかけたが、間に合わず、同図面<×>地点で中島車両と衝突した(右衝突時における被告車両の位置は同図面<5>地点、中島車両の位置は同図面<ウ>地点である。)。衝突後、被告車両は同図面<5>地点に停車し、中島車両は交通量感知器柱に衝突して同図面<エ>地点に停車した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告が本件交差点を右折するにあたり反対車線を直進進行してくる車両の有無・動静に注意し、安全を確認して進行すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったまま漫然と進行した過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、その反面において、久萬吉としても、本件交差点を右折してくる車両につき相当の注意を払うことが期待されたというべきであるところ、この点について注意を欠いていたことは否定できない。それゆえ、双方の対面信号の表示内容、走行速度等右認定にかかる一切の事情を斟酌し、五割の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(久萬吉の損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 逸失利益 五四七八万一二七二円

証拠(甲一1、二、三)及び弁論の全趣旨によれば、<1>久萬吉(本件事故当時五〇歳、昭和二〇年七月五日生)は、本件事故当時、有限会社中島印刷所の取締役として年額六四八万円の報酬を得ていたこと、<2>久萬吉は、本件事故当時、幾子、原告浩一郎(昭和五一年九月二七日生)及び同鮎子(昭和五三年一〇月四日生)と暮らしていたことが認められるから、右年収を基礎にし、生活費控除率を三割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、稼働期間(本件事故後一七年間)内の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 6,480,000×(1-0.3)×12.077=54,781,272

(二) 退職慰労金 認められない。

本件事故以前に有限会社中島印刷所において役員退職慰労金規定を施行する旨の決定はなされてはいないし(証人中島将)、本件事故後、有限会社中島印刷所から久萬吉に掛けていた簡易保険の保険金を元手にして遺族に金員を支払ったことが認められるものの(証人中島将)、これをもって、事故や病気のない退職の場合であっても、退職金が支払われるはずであったとはいえない。その他、本件事故がなければ、将来久萬吉が退職慰労金を支給されていたであろうことを認めるに足りる証拠はない。

(三) 死亡慰謝料 七八四万円

本件事故の態様、久萬吉の家族状況その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、久萬吉の死亡慰謝料は、七八四万円であると認められる。

(四) 葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係にある葬儀費用としては、一二〇万円をもって相当と認める。

2  損害額(過失相殺後) 三一九一万〇六三六円

以上掲げた久萬吉の損害額の合計は、六三八二万一二七二円であるところ、前記の次第でその五割を控除すると、三一九一万〇六三六円となる。

したがって、原告浩一郎と同鮎子は、これを各二分の一の割合(一五九五万五三一八円)で承継したことになる。

三  争点3について(幾子の損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 逸失利益 二一五三万六八〇八円

証拠(甲一1)及び弁論の全趣旨によれば、<1>幾子(本件事故当時四六歳、昭和二四年九月五日生)は、本件事故当時、専業主婦として家事労働に従事していたこと、<2>幾子は、本件事故に遭わなければ、本件事故後も二一年間は家事労働を続けることができたこと、<3>幾子の家事労働を評価すれば、月額二五万四五〇〇円に相当することが認められる。そこで、幾子の生活状況にかんがみ、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右稼働期間内の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 254,500×12×(1-0.5)×14.104=21,536,808

(二) 死亡慰謝料 六七二万円

本件事故の態様、幾子の家族状況その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、幾子の死亡慰謝料は、六七二万円であると認められる。

(三) 葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係にある葬儀費用としては、一二〇万円をもって相当と認める。

2  損害額(過失相殺後) 一四七二万八四〇四円

以上掲げた幾子の損害額の合計は、二九四五万六八〇八円である。中島車両の運転者である久萬吉と幾子との関係(前認定)にかんがみると、幾子の損害の関係でも、久萬吉の過失をいわゆる被害者側の過失として考慮するのが相当である。そこで、前記の次第で二九四五万六八〇八円の五割を控除すると、一四七二万八四〇四円となる。

したがって、原告浩一郎と同鮎子は、これを各二分の一の割合(七三六万四二〇二円)で承継したことになる。

四  争点4について(原告浩一郎固有の損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 久萬吉死亡による慰謝料 五〇四万円

本件事故の態様、久萬吉と原告浩一郎との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、久萬吉の死亡による原告浩一郎固有の慰謝料としては、五〇四万円とするのが相当である。

(二) 幾子死亡による慰謝料 四三二万円

本件事故の態様、幾子と原告浩一郎との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、幾子の死亡による原告浩一郎固有の慰謝料としては、四三二万円とするのが相当である。

2  損害額(過失相殺後)

前記の次第で、1(一)五〇四万円の五割を控除すると、二五二万円(久萬吉関係の損害)となり、1(二)四三二万円の五割を控除すると、二一六万円(幾子関係の損害)となる。

五  争点5について(原告鮎子固有の損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 久萬吉死亡による慰謝料 五〇四万円

本件事故の態様、久萬吉と原告鮎子との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、久萬吉の死亡による原告鮎子固有の慰謝料としては、五〇四万円とするのが相当である。

(二) 幾子死亡による慰謝料 四三二万円

本件事故の態様、幾子と原告鮎子との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、幾子の死亡による原告鮎子固有の慰謝料としては、四三二万円とするのが相当である。

2  損害額(過失相殺後)

前記の次第で、1(一)五〇四万円の五割を控除すると、二五二万円(久萬吉関係の損害)となり、1(二)四三二万円の五割を控除すると、二一六万円(幾子関係の損害)となる。

六  争点6について(原告幸男固有の損害)

(一)  久萬吉死亡による慰謝料 三五四万円

本件事故の態様、久萬吉と原告幸男との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、久萬吉の死亡による原告幸男固有の慰謝料としては、三五四万円とするのが相当である。

(二)  前記の次第で、右金額の五割を控除すると、一七七万円となる。

七  争点7について(原告美代榮固有の損害)

(一)  久萬吉死亡による慰謝料 三五四万円

本件事故の態様、久萬吉と原告美代榮との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、久萬吉の死亡による原告美代榮固有の慰謝料としては、三五四万円とするのが相当である。

(二)  前記の次第で、右金額の五割を控除すると、一七七万円となる。

八  争点8について(原告五一郎固有の損害)

(一)  幾子死亡による慰謝料 三三二万円

本件事故の態様、幾子と原告五一郎との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、幾子の死亡による原告五一郎固有の慰謝料としては、三三二万円とするのが相当である。

(二)  前記の次第で、右金額の五割を控除すると、一六六万円となる。

九  争点9について(原告紀久子固有の損害)

(一)  幾子死亡による慰謝料 三三二万円

本件事故の態様、幾子と原告紀久子との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、幾子の死亡による原告紀久子固有の慰謝料としては、三三二万円とするのが相当である。

(二)  前記の次第で、右金額の五割を控除すると、一六六万円となる。

一〇  久萬吉関係における最終的な損害額

1  損害額(損害の填補前)

以上掲げた損害額のうち、久萬吉関係の損害額の合計は、次のとおりである。

<1> 原告浩一郎 一八四七万五三一八円

<2> 原告鮎子 一八四七万五三一八円

<3> 原告幸男 一七七万円

<4> 原告美代榮 一七七万円

2  損害額(損害の填補後)

原告浩一郎、同鮎子、同幸男及び同美代榮は、本件事故に関し、久萬吉関係で自賠責保険金二四〇〇万円の支払を受けているから、これを右原告らの損害額に応じて填補されたものとすると、次のとおりとなる。

<1> 原告浩一郎 七五二万四四四九円

<2> 原告鮎子 七五二万四四四九円

<3> 原告幸男 七二万〇八六九円

<4> 原告美代榮 七二万〇八六九円

一一  幾子関係における最終的な損害額

1  損害額(損害の填補前)

以上掲げた損害額のうち、幾子の損害額の合計は、次のとおりである。

<1> 原告浩一郎 九五二万四二〇二円

<2> 原告鮎子 九五二万四二〇二円

<3> 原告五一郎 一六六万円

<4> 原告紀久子 一六六万円

2  損害額(損害の填補後)

原告浩一郎、同鮎子、同五一郎及び同紀久子は、本件事故に関し、幾子関係で自賠責保険金三〇〇〇万円の支払を受けているから、これを右原告らの損害額に応じて填補されたものとすると、いずれも残額は存しないことになる。

一二  弁護士費用

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき弁護士費用は、原告浩一郎及び同鮎子につき、各八〇万円をもって相当と認める。

一三  結論

以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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